遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「愛の不時着」を見て黒澤映画を想いノスタルジックになりました

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「梨泰院クラス」「ムーブ・トゥ・ヘブン」「サバイバー:60日間の大統領」「ヴィンチェンツォ」「イカゲーム」「マイネーム:偽りと復讐」と韓国ドラマを見てきた私、ついに「愛の不時着」(全16話)を見ました。

直前に見た「マイネーム:偽りと復讐」が、ユーモアのかけらもないシリアスな暗黒ドラマだったので、妻がもっとほんわかドラマが見たいというのでなぜかとりあえず「愛の不時着」を偵察をかねて(笑)1話だけ見ようと提案しました。

北朝鮮の兵士と韓国の女性の恋愛ドラマだというくらいの前提知識はありましたが、妻が楽しめるほんわかなドラマとはちょっと違うだろうなとあまり期待はしていなかったのですが、さすがは大ヒットドラマだけのことはあって、私たちは第1話でこのドラマのど真ん中に不時着してしまいました(ダサい表現w)。

同じ民族だけれど体制が異なった国に暮らす主人公二人の禁断の愛がベースにはあるものの、意外とカラッとしたさわやかでユーモラスなドラマでした。番宣のスチール写真では、とりわけ女性主人公の表情から、もっと湿り気のある苦いストーリーだと思っていましたが、私の想像力の貧困のなせる業だったという結論に至りました。

主人公の部下である北朝鮮の若い兵士4人や地方に暮らす主婦たちの4人が、ボケとツッコミありのお笑い4人衆で、この男女の2組が全話を通してユーモラスな潤滑剤として機能していて楽しいものでありました。

この2つの男女の4人組を通して北朝鮮のイメージを視聴者に届けているのですが、彼らの暮らしや考え方は北の現実と乖離しているはずですが、北を枢軸国として描いていないところ、つまり政治的な南と北の問題をあまりドラマに持ち込まずに言葉が通じ合う両国の人たちの人間ドラマとして描いたところが、本作の成功のひとつのツボだったように感じるところです。

主人公の男女それぞれが属する、北の軍部内と韓国の企業内のハラハラドキドキするシリアスなパワーゲームが、視聴者を飽きさせることなく楽しませてくれます。有名女優をカメオ出演させるような遊び心もあります。

3人ほど顔見知りの脇役俳優が出演していましたが、キャスティングされた脇役たちがみな個性豊かで、役になり切っているところが素晴らしいと思います。

韓国ドラマを見続けていると、きっと「え、これあの俳優?女優?」という発見が少なからずあるような気がしますが、ヘアスタイルやメイクや衣装のせいもあるものの彼らの役の演じ分けは性別年齢に関係なくプロフェショナルだと思います。

主人公の俳優が一人で多くの暴漢と立ち回りを演じる迫力のあるシーンや4人組のユーモラスなシーンを見ていて、黒澤映画の「用心棒」や「椿三十郎」などを彷彿とさせることに気が付きました。いつか、Netflix黒澤明などの日本が誇れるエンターテイメント色の強い時代劇やヒューマンドラマが無料配信されて、世界中で再評価されることがあるのだろうかと思わずにはおれませんでした。

かつて、日本の映画やドラマは素晴らしかったと思いますが、その文化芸術に韓国が追いついて、いまや追い越して行った感があります。

ということで、今回ご紹介の「愛の不時着」は「梨泰院クラス」と並んで、私のなかでは韓国ドラマの両横綱の位置に据えられました。

 

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