日没 桐野 夏生 岩波書店
久々に桐野夏生を読んだ。
本作はディストピア小説として話題になっていたが、次々と問題作を発表する女性作家の主人公が「療養所で治療」されるお話。
キューブリックの名作映画でマイベスト50以内に入る「時計仕掛けのオレンジ」(原作アントニイ・バージェス)に似たテーマを扱っている。
療養所にいる登場人物たちがよく描けていて、サスペンスの調べがずっと漂っていて緊張感がある。
名作映画、例えば「パピヨン」「羊たちの沈黙」「カッコーの巣の上で」のようなシーンがコラージュされた雰囲気もあって、単調になりがちな本線を飽きさせない。
一部始終を主人公の一人称で書かれていてラストで驚愕するのだが、こんな「ルール」や「システム」があるのか?と思った。一般的な質問として「知恵袋」で尋ねてみたいと思った。
問題作を発表してきた桐野夏生。実際彼女の作品を読んでいて、登場人物が彼女の分身なのか?と錯覚することがあるが、それは「創作」なんだよ誤解しないで、それが芸術が持つ「表現の自由」なんだよと、この「日没」の主人公に語らせて示唆している。
桐野自身の頭の中を整理しただけでなく、いまもっともタイミングよく世に問う形で出された、これまた「問題作」だった。
とここまで書いてきて、このレビューは「」(カギかっこ)つきの言葉が多いことに気付くが、ネタバレにならないための「アクセント」なのだった。
本作の物語が、小説世界だけにとどまる日本であることを永遠に祈るが、エキサイティングで「いろいろスリリング」で面白い小説だった。