遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

やはりグリシャムは面白い「『グレート・ギャツビー』を追え」を読みました!

f:id:toship-asobi:20210106114641j:plain

グレート・ギャツビー」を追え ジョン・グリシャム , 村上 春樹 (訳) 中央公論新社

ジョン・グリシャムは元弁護士作家なので、法曹界が舞台の作品が多いのだが、本作はオリジナル原稿や稀覯本(有名作品の初版とか高い価値のある書籍)や作家や書店が主軸となるミステリーだ。

大道具と小道具が整った後、物語は原題の「カミノ島」という美しいリゾート地で、魅力的だが大学の文学部の教職を失ったばかりの文無しの女性作家が主人公で進められていく。

登場人物をあまり詳しく説明してしまうとネタバレになるが、上の表紙画像の3人の足元のイラストが象徴的だ。

右のタイトなスラックス姿が、主人公の女性作家マーサー(だと思う、以下同じ)。

左の素足にスニーカーが、だて男のもう一人の主人公ブルース。

そして、中央のパンプス姿の女性が、文無しのマーサーに近づいてくるある女性。

プリンストン大学の図書館から略奪されたスコット・フィッツ・ジェラルドの「グレート・ギャツビー」を含む5篇のオリジナル原稿の行方を追って、この3人がメインでワクワクする物語を推進していく。

上質の旅映像が満載な上、ストーリーの展開が卓抜で、読むものがなくなってしまった村上春樹ポーランドの旅の途中で偶然に買い求めた原作を、「脇目もふらず」読みふけり翻訳までしてしまったのだった。

映画「ペリカン文書」(1993年)を見た時には、ジョン・グリシャムはよく知らなかったのだが、その後「法律事務所」「依頼人」「評決のとき」「レインメーカー」「相続人」などの原作とその後の映画作品を楽しむようになって、彼の作品は小説と映画その両方で魅了されていた。

私としては、久々のグリシャムだったが、期待は裏切られない逸品がここにある。「『グレート・ギャツビー』を追え」という邦題はあまり感心しないが「カミノ・アイランド」という原題では、海辺の砂をかむようなタイトルだし、まあ仕方がないところだろうか。

作家と出版社との契約関係や販売戦略などのエピソードも豊富で、本好きへのサービスも満点なのだった。