あやうく一生懸命生きるところだった ハ・ワン (著) 岡崎 暢子 (翻訳)
著者のハ・ワンは、韓国の作家でイラストレーターの40代前半の男性。
表紙のイラストとキャッチーなタイトルにひかれて読んでみた。
表紙のイラストは一見、プールサイドでくつろいでいる贅沢なシーンに見えるが、実は倹(つま)しい自宅の青い壁の前で(なぜか)ブリーフ姿で猫とまったりしている著者の図なのであった。
一生懸命生きてこなかった66歳の私がいまさらこのエッセイを読んでも、新しい地平が見えて来るとは思わなかったが、私の半生をこの本がまとめてくれていて振り返りができそうな気がしていた。その予感は当たらずとも遠からずであった。
高校生の著者は、絵を描くことを生業にしようと大学受験に挑戦する。
韓国では、ホンデ大学(弘益大学校)を卒業することが美術界で生きていく王道でしかも一本道なのだそうで、著者はその「ホンデ病」に罹ってしまったと述懐する。
結局、奮闘努力+艱難辛苦の末、彼は三浪してホンデ合格を勝ち取る。そして、生活費と授業料のために必死の思いでアルバイトをしながら大学を卒業する。卒業後は、会社勤めをしながらイラストレーターとして40歳前までまさに一生懸命生きてきた。
この40歳までの一生懸命さにもかかわらず、「報われない人生」だった彼は一念発起して、会社を辞めイラストの仕事をすべて断り自由に生きるライフスタイルを採用し、その数年後に本書を上梓した。
貯えた貯金が底をつくまで好きに気ままに生きていくという、それまでの著者の半生と全く逆のことをしたらどうなるか、その真骨頂は本書でつまびらかにしている。
韓国でも日本でも、悩める若者たちの実情は似ていて、「壊れかけ寸前」の状態で暮らしている。健全で健康な暮らしは大切だが、裕福な暮らしと楽しい人生は同心円状にないことを早く認識すべきだろう。
音楽、映画、読書、舞台劇、楽器演奏、絵画制作など芸術的なものに親しめると人生はぐんと楽しくなることは、幼少期に気付いて私も長く経験済みのこと。
さしあたり、楽しく暮らすには読書がいいと思う。そうだ、このとっつきやすい「あやうく一生懸命生きるところだった」を読むことをおすすめする。
本書のどこか1ページでもいいので自分の生活に取り入れて暮らし方を少しだけ変えてみたら、生まれて生きてきてよかった、「あれ?意外に悪くないね、人生って!」と思えるようになるかもしれない。40歳でも50歳でも60歳でも遅くない。