御社のチャラ男 絲山 秋子 (著) 講談社
久々に絲山秋子の小説を読了。
小説の舞台は北関東にある中企業のとある食品会社。そこの社員たち(社長から総務の女子まで10人くらい)が、一人称で自分や会社の同僚や上司や部下や家族のことなどを語る章立てになっている。
最年長の社長以下、社内の老若男女とその家族の独白のような語りのどこかしらが、すべての読み手にあるある感一杯でシンクロする。
そして、多くがチャラ男こと三芳部長のことを、揶揄したり批判的に語る。
チャラ男部長自身も語り部として真ん中あたりで登場するのだが、彼の生き方、つまり、部下や取引先や家族との距離感のとり方が絶妙で微妙にバランスが良いのだ。「チャラ男のどこが悪いの?」「チャラ男がそこまで考えてるの?」といぶかしく思いながら、読者は後半に突入することになる。
本作は、平成が終わる頃から令和にかけて書かれた小説で、元号が変わるザワザワ・フワフワした世の中をしっかり捉えていたり、コロナ禍のいまを予感したような部分もあって予言的でもあり、広く世相を語るエッセイのようでもある。
元バリバリの営業職で、鬱にもなったことがあり、車の運転も大好きな絲山秋子らしさが随所にちりばめられている。
インターネットの網の目の中で腐り始めた令和世界をそれとなく、しかししっかりと登場人物に批判的にかつ建設的に語らせるところが立派である。
きっと世間のチャラ男はこの本は読まないと思うが、私は自身をチャラ男と思っていないので本作を読んだが、現役時代にはチャラくて迷惑な存在だったかもしれない、と少し反省。
見えない水中の水かきは必死に動かしていたのに、家族にも同僚にも認められていないようだが、それはそれで楽しい人生だったと今なら思える。そこがチャラ男のチャラ男たる所以だ。
現世を住み辛く働きにくく思っている良い子は、本作を読んで少しチャラくなれば、「それでいいのだ!」「それがどうした?」と思えるようになり、違う世界が見えてくるかもしれない。