遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

「交通誘導員ヨレヨレ日記」を読みました

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交通誘導員ヨレヨレ日記――当年73歳、本日も炎天下、朝っぱらから現場に立ちます    柏耕一 (著)  フォレスト出版

著者柏耕一は73歳の編集者兼ライターなのだが、いわゆる「潜伏もの」を上梓するつもりで警備員(交通誘導員)に就いたわけではない。
わけあって、自分の編集プロダクション会社を清算して借金返済と生活費工面のために警備の仕事を選んようだ。

とりあえずキャッシュが必用なとき、70歳以上で働ける場所はほとんどない。著者の所属する会社の警備員の8割が70代だそうだ。

交通誘導員を見るたび「あのおじさん何歳かなあ」とつぶやく妻に、「年取ってそうで、実は50代くらいかも」と答えていた私は、本書を読んで思いを改めることにした。きっとその警備員は70代くらいなのだろう。

警備員の誘導が何を私に求めているのかがよく分からないケースがあるが、あれは私の理解力が悪いだけでなく、その警備員の表現力にも問題があるようだ。また、実に丁寧に「ご迷惑をおかけしています」と声をかけてくる警備員がいるが、それとは裏腹に仲間内ではめっぽう評判が悪い男だったりもする。

道路工事をしている業者と警備員は別組織の一員で、警備員は一般の人と工事関係者(業者)の両方の甲乙つけがたい強烈なプレッシャーに耐える必要がある。

まあこの一冊で、この世はバカが多くて疲れるのだということを再確認するのだが、70を超えた百戦錬磨の著者は軋轢やストレスを受け流す術を備えていてためになる。

私はこの世界について何も知らなかったが、本書は誰にでも理解できる興味あるエピソードだらけでスラスラ読めた。

本書のベストセラー化で、著者の警備員卒業の夢は叶っただろうが、私は本日からこれまで以上に警備員に敬意を持つつもりである。