遊びをせんとや生まれけむ

あらゆる芸術の士は人の世を長閑(のどか)にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。夏目漱石

奔放なドイツ語圏のミステリ小説「国語教師」を読みました

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国語教師  ユーディト・W・タシュラー (著), 浅井 晶子 (翻訳)  集英社

 

 ドイツ語で書かれたミステリ小説「国語教師」のご紹介。

 主人公は女性国語教師マティルダ男性作家クサヴァー。二人は元恋人同士で16年間付き合っていて、16年ぶりに再会するところから物語は始まる。

 ギナジウム(8年制の中高一貫校)での創作文学のワークショップの臨時講師を務めることになったのが、作家のクサヴァー。作家は日程調整のため、担当の国語教師とメールで連絡を取り合うと、それが偶然にもかつて一緒に暮らしていたマティルダだった。

 16年間一緒に暮らして16年ぶりの再会なので、作家と教師はもう50代半ばになっている。この二人は破局を迎えて結婚をしなかったのだが、破局後の二人の間にはある不幸な事件が横たわる。

 

 「事件の謎」の解明と「人生の不思議」についてが大きなモチーフとして、終始読み手に語りかけられる。ミステリ小説はいつも、事件の謎と人生や人そのものの不思議が扱われる。

 本作では、主人公二人の人生を表象するモチーフが示される。

 そのモチーフとは、女性国語教師マティルダは「意欲」で、男性作家クサヴァーは「虚栄」だった。このモチーフは、普遍性があるように思う。いつも男は「虚栄」に生き、女は「意欲」的に生きるのではないだろうか。

 著者ユーディト・W・タシュラーは、本作の舞台ともなったオーストリアインスブルック在住で、操る言語はドイツ語で、国語教師もしていたことがある。主人公二人の要素をほぼ備えていて、「男」という要素だけが欠けている。にもかかわらず「虚栄」の男が見事に描けている。女の「意欲」は言うまでもない。

 時制は入り乱れ、二人の対話はメールだったり直接だったり、二人の創作した物語や真実の物語が錯綜したりと、いまどきのドイツ語圏の小説はこんなにも奔放なのかと驚かされるが、それが心地よい。

本作は「ドイツ推理作家協会賞」を受賞していて、それは不思議でも何でもない。

 

 

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