刑罰 フェルディナント・フォン・シーラッハ (著), 酒寄進一 (訳),東京創元社
元弁護士のドイツの作家、フェルディナント・フォン・シーラッハの「刑罰」をしみじみ読了。
本書は1ダースの短編集が入っていて、シーラッハ特有の短い文章の連なりが端正なリズム感を作り出していて飽きさせない。
原作はドイツ語で書かれているのだが、翻訳家はいつもそのリズム感を損なうことなく日本語で私たちに提供してくれている。
シーラッハの作品を読むのはこれで3作目。以前読んだ「犯罪」「コリーニ事件」と本書。どれも傑作だ。
社会通念上は極悪人や犯罪者と呼ばれる人間にまつわる物語なのだが、手続き上の問題のせいだったり、偶然が重なったりして罰を逃れられた人間を主に描いている。
性癖が著しく変わっている男とその妻、不妊が原因で病んでいく夫婦、貧困から自力で抜け出した女弁護士の初めての公判などなど、短編だが長くて大きな物語が次々続く。読み終わっても終わらない、心が離さない残留する余韻を確かめられる。
完全なる創作ではなく、ベースには似たような実在の人物や事件が存在するようだ。12編の登場人物は、近くにいてもらっては困るような人間ばかりなのだが、彼らを切り刻んでパッチワークをすれば自分の分身を確認することもできる。
それが、読者に共感を呼ぶのだろう。
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