恋 新潮文庫
小池 真理子 (著) 価格: ¥740 (税込)
百合子ではなく、林でもない。
小池真理子である、以後お見知りおきを。って、知ってるか。
この「恋」で、114回直木賞を受賞。
パートナーの藤田宜永をさしおいての受賞であった。
後に、藤田も直木賞を受賞している。夫婦で受賞した例は他にないようだ。
この作品は、ミステリーのつもりで読み始めた。
ま、ミステリーであるが、それよりも強い官能的で禁断の空気が漂う。
美貌の主人公、雛子の持つ不思議な魅力が、なんとも心に残る作品である。
実際に、こういう女性が存在することはない。
人は、たとえば一目惚れのように、爆発的な魅力で他人を支配することは、難しい。
しかし、神秘的な完璧な美しさは、断片的な情報で、
意図して作ることが出来るのである。
カット割りで、美貌の映画女優を作り上げることも、同様である。
だから、それを利用しない手はない。
反則でもなんでもない。
小池は、一人称で語られる作品の特典を、目いっぱい利用している。
悲しい時代の、悲しい人間関係。
そういう、やるせなさを、華やかな雛子が救っているのであろう。
職場の若い男2人に、これを貸してやった。
それぞれ、心に何が残ったかは知らないが、面白かったようだ。
雛子に一目惚れしたのかもしれない。
私は、他に、小池の作品をまったく知らないが、
「恋」は、なんとも不思議な残り香を、いまなお漂わせてくれる。