お楽しみはこれからだ―映画の名セリフ 文芸春秋
和田 誠 (著) 価格: ¥1,600 (税込)
著者の和田誠は、ご存知、泣く子も黙る稀代のイラストレーター、グラフィックデザイナー。
いま、週刊文春の表紙を描くのが、この人。
1960年に発売された、我が国最初のフィルター付きタバコのハイライト、
そのパッケージ・デザインもこの人。
この人のイラストは、実に端正で簡潔で、これがプロの仕事だとウナってしまう。
レタリングも、縁取りの線描写が独特で、一目で和田だと判る個性がある。
この本は、映画好きのイラストレーターが、映画の名セリフを紹介するという切り口で、
映画やスターを語る楽しいエッセイ。
もちろん、似顔絵イラストも全ての章につけられている。
『キネマ旬報』に連載したものをまとめて本にしたもので、
タイトルの「お楽しみはこれからだ」は、『ジョルスン物語』に出てくるセリフで、
オリジナルは <You ain't heared nothin' yet> だそうである。
しかし、「あなたたちは、まだまだ何も聞いていない」を
「お楽しみはこれからだ」とは、けだし名訳である。これも、唸ってしまう。
和田は、映画を観る時には、サインペンとノートを片手に、
気の利いたセリフがあれば、リアルタイムで書き留めるのだという。
それで、映画を楽しめるのかと思ってしまう。
でも、それで私たちを楽しませてくれる。
私は1975年発刊の1冊目から、パート4まで所有している。
その後も出版は継続され、今ではパート7を数える。
1冊目からセリフをひとつ紹介する。
「おなかが減ったときにスパゲッティを出されたら、
ビフテキを食べたくとも、スパゲッティを食べなさい」
ロッサノ・ブラッツィが「I love you」の代わりに
キャサリン・ヘップバーンに捧げた言葉。
「スパゲッティ」は、中年男である自分のこと。
「ビフテキ」は、キャサリン・ヘップバーンがまだ見ぬ素敵な王子さまのこと。
映画は、1955年の「旅情」。
監督 デビッド・リーン 出演者 キャサリン・ヘップバーン、ロッサノ・ブラッツィ。
美しいベニスを舞台した、中年男女のラブロマンス。
この映画のラストシーンは、総ての映画の中で最も有名であろう。
因みに、日本で一番初めに「I love you」を和訳したのは二葉亭四迷で
「あなたのためなら死んでもいい」。
また、夏目漱石が教師をしていた時に
ある生徒が「I love you」を「あなたを愛しています」と和訳した。
すると漱石先生曰く、「それは間違っている。私たちはそんなことは言わない。
『月が綺麗ですね』 とでも訳しておきなさい。それで充分通じる。」
(これは、若い学生さんtossy0518さんからいただいた話。
http://blogs.yahoo.co.jp/tossy0518/11143149.html)
「旅情」のセリフも、四迷先生も、漱石先生も、いい。
いいセリフを紹介してくれる和田誠も、ついでに奥方平野レミも、
いろいろ楽しませてくれて、イイ。